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主婦の友社

「プラスワンリビング」

11月7日発売号

「アンティークシルバー

の思い出」


銀器の歴史に秘められた
人間ドラマを語る連載第9回

今回の主人公は

16世紀後半

激動のフランス宮廷を動かした
カトリーヌ・ド・メディシス

銀フランス宮廷に銀のフォークの使い方をひろめ、驚くべき趣向の宴席を主宰した王妃
宗教戦争を背景に陰謀と裏切り一杯の厳しい政治世界を生き抜いた一人の女
宴席と政治がどうつながるのかその背景を語ります

 

不定期連載『銀のつぶやき』
第69回「おひとりさまは清少納言」

2007/11/29


 最近、上野千鶴子先生とお話をさせて頂く機会がありました。実際にお会いしてみれば、決して「怖い先生」などではありませんでした。ちょっとうれしい、意外な出来事でしたので、今回はそのお話をしてみたいと思います。

上野先生といえば最新作『おひとりさまの老後』(法研)が現在ベストセラー街道ばく進中で、本職は東京大学大学院人文社会研究科の教授でいらっしゃいます。でも、こんな肩書きの紹介など要らないほど有名な方ですよね。

11月中旬のことです。とある居酒屋で先生の隣に座らせて頂いて、グラス片手にたっぷりとお話を聞くという幸運に恵まれました。こんな贅沢許されていいのだろうか、と思いつつ。

もちろん以前からお名前は存じ上げていました。でも、お書きになったものについては、これまでほとんど読んだことがありません。それがちょっとしたきっかけで、先生編集の『脱アイデンティティ』という本を読むことになり、そこに所収の先生の論文を読んで、一発でファンになってしまいました。

「ファンになった」といっても、先生の主張に心から共感して、というわけじゃあないんです。その頭の働き方、論の進め方、イマジネーションの面白さ、そういうところに強く惹かれた、というのが正直なところです。絵で言えば、筆使いのタッチや色彩の構成感覚に参っちゃったということです。

上野千鶴子先生といえば「ちょっと怖くて近づけない」。特に男どもの側からは、そういうイメージが強くあります。下手なことを言えば、徹底的に吊し上げられてしまうかもしれない。私もそう思っていました。で、最初は黙っていました。隣に座っていながら。

でも、先生が旧知の方々とにこやかにお話しなさる様子を目の当たりにして、おずおずと、先生の論文について質問などをしてみました。そしたら、先生は真剣に私の質問に答えて下さいました。あとは徐々に固さが取れて、いろいろとお聞きしたわけですが、とにかく、どんな質問に対しても、きちんと対応して下さいます。「このオジサン(私のこと)、意外と話が早くていいね」などとおっしゃりながら。

時に痛烈な皮肉が入ったりしながら、大部分は直球ストレート。もちろんカーヴあり、微妙なシュートありと、変幻自在の応答でいらっしゃいます。そして、ご自分の投げた球を相手がどう受け止め、どう投げ返してくるか。その反応を楽しんでいらっしゃる。球をグローブの真芯でビシッと受け止めているか、取り損ねていないかどうか。そして相手の返球の球筋をよく見据えた上で、これに合わせて更に、変幻自在の投球を重ねていく。そんな感じの、あっという間の2時間でした。

この席には若い年代の人たちも同席していました。彼らからの質問に対しては先生、質問者の将来への配慮が感じられる親切なお答えをなさっていました。脇で聞いていて、この点は、とても印象的でした。ああ、この方は教育者でいらっしゃる、それも並々ならぬ情熱のある教育者でいらっしゃる、そう感じました。意外というか、予想外でした。人間、ご本人にお会いして、ちゃんとお話を聞くことが大切だと痛感させられました。

先生は世に「論争家=ケンカ女」として知られています。でも、それは、特に本職の専門研究者としての立場から出た基本姿勢なのだと知りました。

「論争から逃げることなく、相手を撃破するという気力を持って論文を書く。そういう心構えのできない人は、社会学の学者には向かないわよ」

これは若い女性の大学院生に向けたお言葉です。このひと言で「あっ、なるほど、そういうことだったんだ」と思いました。それにしても、これは、とても深みのある言葉だと思います。要するに、論争に値するほどのものを書け、とおっしゃているわけで、これはなかなか容易な覚悟ではできることじゃないでしょう。

「伝統的な学問分野にはそれぞれの分野において歴史的に蓄積されてきた方法論がある。これをきちんと身につけていなければいけない。新しいことをやるといっても、こうした伝統的な学問分野での基礎ができていない研究者は使いものにならないのよ。例えば○△ジーが専門ですなんていうの最近よく聞くんだけど、あの連中は全然ダメ。」

この言葉も忘れられません。いつも新しいことを追っていらしたようでありながら、実は伝統知重視でいらっしゃることを知り、とこれまた意外だと思いました。

いずれにしても、こうした貴重な言葉をたくさん聞かせて頂いて、気が付けば居酒屋は閉店の時間に。外に出てみれば寒風吹きすさび、でも先生は楽しそうで元気いっぱいで、私はその時、なんだかこの先生、現代の清少納言みたいだな、と思いました。

 

きょうのお話は、ここまで。

面白いお話、出てこい。
もっと早く、もっとたくさん。

2007/11/29

■講座のご案内

いろいろな場所で少しずつ異なるテーマでお話させて頂く機会があります。話の内容は様々ですが、基本テーマは一つです。

「ヨーロッパの食卓の歴史的な変遷を、これまでにない視点から、探訪する。」

歴史の不思議な糸で結ばれた、様々な出来事。銀器という枠を越えて、食卓という世界を通して見えてくる、人々の社会と暮らしの面白さについて、お話ししたいと考えています。

詳しくは→こちらへ。