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「プラスワンリビング」

7月7日発売号

「アンティークシルバー

の思い出」


銀器の歴史に秘められた
人間ドラマを語る連載第7回


今回の主人公はイタリア・ルネサンス期の激動を生き抜いた
マントヴァ候妃

イザベラ・デステ
極めて魅力的な女性です。


彼女の宮廷の面白さ、興味深い宴席の様子など、銀器文化の奥深い背景を訪ねます。

 

不定期連載『銀のつぶやき』
第57回「ジョージアン・スタイルの銀器?」

2007/6/17


「できればジョージアンの銀器で統一したいんですけれど…」

数年前からこのような声をお客様から聞くことがあり、私はちょっと不思議なことだと思っていた。というのも、そうおっしゃるお客様の話をよく聞いてみると、あたかも「ジョージアン・スタイル」という「一定の様式」が英国骨董銀器の世界に存在しているかのようなお話をなさるからなのだ。

なぜ、そんな誤解が一部のお客様の間に広まるようになったのか、私にはよく、分からない。しかし、骨董銀器の専門家のはしくれとして、これはちょっと見過ごしにできないことだと思い、敢えて今日はそのことについて少しお話してみたいと思う。

「ジョージアン・スタイルの銀器」って、一体なんのこと?

ジョージアンというのは、年表的には、英国でジョージという名前の王様が4代続いた、1714年から1830年までを指す。ハノーヴァー王朝最初の4代の王達の時代ということになる。もっとも英国の骨董業界では一般に、1714年から1837年のビクトリア女王の即位前までを漠然と「ジョージアン」と呼ぶ場合も多い。

「骨董業界」といっても様々な業種があるが、銀器の世界は、他の専門骨董商と比較して、特にモノの制作年代と素材(銀の純度)については、目が厳しい。銀器には、刻印制度があるからだ。とりわけ英国の銀器刻印制度がきちんとしたものであることについては、ここで説明するまでもないだろう。それがどんな制度なのか「簡単に知りたい」と思う方は、こちらをお読みになってみて下さい。

というわけで銀器の場合、プロが英国の銀器刻印を判定するにあたって、作られた年代がジョージアンであるのか、はたまた、ヴィクトリアンであるのか、これを読み違えるということは、まず、あり得ない。さらに専門の骨董銀器商であれば、銀器の製作工房名に加えて、1783年もしくは1784年です、と年単位のレベルまで断定できて当然、ということになる。

要するに、年代判定に厳しい骨董銀器の業界では「ジョージアン」といえば、基本的には、1714年〜1830年までの間に作られた銀器を指すことになる。

では、この117年間の間、銀器のデザインはどのような変遷をたどったのかといえば、これはもう、多様な要素が存在している。あたりまえである。百年以上に渡って、ある一定の傾向の銀器ばかりが作られ続けるなどということが、あるわけがない。

極めてシンプルなパネル状の銀器から、これ以上華麗でデコラティブな銀器はないと思われようなロココの銀器まで、多種多様な銀器が「ジョージアン銀器」という範疇に含まれている。

例えば「リージェンシー」と呼ばれるスタイルもまた、ジョージアンを代表する銀器デザインのひとつである。そして、この「リージェンシー」を代表するデザインのひとつに、古代エジプトの壁画やスフィンクスなどを思わせるモチーフが大きな要素となっているものがある。スフィンクスが銀盆を支えるような形の銀器、これもまた、まぎれもなく、ジョージアンを代表するスタイルのひとつなのだ。

従って、「ジョージアンの雰囲気で揃えたいんですけどー」というお言葉を頂くと、一体その方が、どういう銀器を指して「ジョージアンの雰囲気」とおっしゃているのか想像もつかない、というのが正直なところである。

ひょっとして、ロココ風? それとも、エジプト風? それとも、装飾のほとんどないシンプル風? どれもみな立派な「ジョージアン・スタイル」なのだから。本当はもっと様々なデザイン・パターンをジョージアンの具体例として挙げることができるが、もう、止めておこう。

大切なのはむしろ、なぜ一定の時期に「ロココ」が流行し、なぜある時期に「リージェンシー」が流行したのか、ということではないだろうか。銀器の表面を飾るデザインには、そのデザインが生まれるまでの長い歴史が隠されている。そこには、人々の暮らし方の変化や経済構造の変化などが複雑に絡み合う歴史背景がある。

その背景が見え始めてくると、古い銀器を飾る装飾の向こう側に、人間たちの興味深い営みが見えてくる。へーえっ、その頃、そんなことがあったのか。だから、リージェンシーにスフィンクスなんだ。だからフランス風ロココが流行したんだ、と納得できることになる。

そして、そうした背景まで見えてくると、「ジョージアン風の銀器で揃えたいんですけど…」というお言葉ではなく、たぶん、「ロココ風が好きなんですけど…」とか「リージェンシーも悪くないですよねー…」というふうに、選ぶ視線が変化するのではないかと思う。

要するに、「ジョージアン風の銀器」という一定のデザインは存在しない。それは、「ヴィクトリアン風の銀器」という世界が存在しないのと同じくらい、間違いないことだ。少し英国の銀器について興味を持ち始めたという皆さんにはぜひ、このあたりのことを頭の隅に入れて頂ければと思う。

こういうお話は、ときどき私の講座でも話す機会があるので、ご興味のある方は、このホームページ上の講座案内をたまに覗いてみて下さい。

 

きょうのお話は、ここまで。

面白いお話、出てこい。
もっと早く、もっとたくさん。

2007/6/17

■講座のご案内

いろいろな場所で少しずつ異なるテーマでお話させて頂く機会があります。話の内容は様々ですが、基本テーマは一つです。

「ヨーロッパの食卓の歴史的な変遷を、これまでにない視点から、探訪する。」

歴史の不思議な糸で結ばれた、様々な出来事。銀器という枠を越えて、食卓という世界を通して見えてくる、人々の社会と暮らしの面白さについて、お話ししたいと考えています。

詳しくは→こちらへ。