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大原千晴

アンティークシルバー物語

主婦の友社

好評発売中

人物中心で語る銀器の歴史

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大修館書店
「英語教育」2月号

絵画の食卓を読み解く

連載第11回

英国19世紀ロンドン

テムズの魚河岸

 

不定期連載『銀のつぶやき』
第104回「松本のバッハと新そば 2」

 

2010/1/31 

 だいぶ間があいてしまいましたが、前回のお話「11月の松本行き」の続きです。

11月15日、松本駅で大糸線に乗り換えて2つ目の、島内という駅で下車した。大糸線といえば、日本でも有数のスキーエリア白馬へと通ずる路線だが、3両ほどの編成の可愛らしいローカル線で、島内駅は降りてみたら無人駅だった。

 到着ホームから一旦線路に降りてこれを渡って、反対側にある駅舎へと乗客は歩いて渡る。駅舎側のホームに上がり、改札にある箱に切符を入れて外に出る。「駅前」といっても、駅の外は、ただただ普通の家が並んでいるという、これはもう東京では考えられない情景だった。

 この駅から歩いて一分の場所に、松本市音楽文化ホール(ザ・ハーモニー・ホール)がある。公園のような一角に、真っ赤に紅葉した木々が目にまぶしいほど。瀟洒な大屋根がおしゃれだ。中に入ってみれば、ホールとしては小ぶりながら、中央に立派なパイプオルガンが設置され、ホールの大きさの割にずいぶんと贅沢な造りだと感心した。

 今日ここまでやってきたのは、ワケがある。日本でも有数のフルート奏者であり、トラベルソ(フルートの先祖)の第一人者として知られた、有田正広さんの講演と演奏を聴くためだ。この日のテーマは、バッハの『音楽の捧げもの』。バッハの作品の中でも非常に変わった作品として知られ、彼の残した楽譜をどう読みとくか。バッハおたくには語れども尽きることない面白さが一杯の作品であるらしい。

 この作品をより聴衆に深く理解してもらおうという工夫からだろう、会場入口で演奏目録が手渡された。有田さんや、音楽会の影の主催者であるYドクター氏の解説など、熱のこもった文章が載る、立派なものだ。手間とお金が掛かっている。これに目を通しているうちに開演時間が近づく。

 まず1時間ほど有田さんの作品解説があった。大学の講義といってもいい内容を、一般向けに分かりやすく話が通じるようにと、かみくだいてお話下さった。私にとっては、これが非常に興味深いお話だった。

 子供の頃からバッハの音楽は大好きだけれど、バッハおたくというわけではない。なのに、話が非常に面白い。なぜか。それは、有田さんの話の随所に、宮廷におけるバッハと王の関係や、当時のしきたりにまつわる逸話があれこれ出てきたからだ。

 私は長い間「銀器と料理」という窓を通して、欧州のさまざまな宮廷宴席のあり方をアレコレ調べてきた。その「音楽」の部分が、有田さんのお話で、より鮮明に見えてきたのだ。宮廷宴席というひとつの世界を、銀器とはまた別の窓を通して見ている。そういう感じを随所で受けた。だからバッハの話を聴きながら、頭の中で私は、銀器と宴席と料理を思い浮かべていた。

 その後で、いよいよ『音楽の捧げもの』の演奏。当日は、わざわざ浜松楽器博物館所蔵から借り出してきた、古い楽器での演奏で、現代のフルートとはずいぶんと音の出方が違っている。あらためて、この曲が当時の宮廷の広間を前提にして作られたものであった、ということを思い出させてくれる、優しい響きだった。

 会場には浜松楽器博物館の館長さんがおいでになっていて、後でお話をお聞きしたら、「楽器は博物館に飾ってあるだけでは意味がありません。演奏されてこその楽器なわけですから、有田さんのように古楽器の扱いを理解している演奏家であれば、むしろこうした形で使って頂くことは、とても素晴らしいことだと思っています」とのこと。

 Yドクターが中心となって実現したこの演奏会。ホールはほぼ満員。人口も少ない松本で、しかも、こうした難しい内容で音楽会が成立する。松本という町の文化的な底力を感じた。音楽会の後は、これまたYドクターが手配なさった会場で、打ち上げパーティー。50人ほどが参加なさっただろうか、実に多様な松本市民がいらしていて、とても面白いパーティーだった。

こうした伝統工芸を生み出してきた文化の集積が松本にはある

 そして最後に、ごく近しい関係者だけで、Yドクターのご自宅にお伺いした。奥様が気配り下さって、おいしいお茶とリンゴ。ここでは、有田ご夫妻、プロ顔負けの深い音楽知識で一杯のYドクター、楽器博物館の館長さん、白馬在住の優雅なフルート奏者、それに、有田さんの弟子である大学院生という人々の間で、興味深いお話が展開した。古い銀器と関連する重要な話題が出たが、これはまた、いつかここで「つぶやく」機会があると思う。こうして夜半近い時刻に、一同辞去。思い出に残る一夜となった。

 ホテルの部屋に戻って、改めて思った。この音楽会は、Yドクターという稀有の人物を中心とする松本の人々の熱意によって成り立つ「手づくりコンサート」だったのだ。かくいう「銀のつぶやき」も、大学生時代には何度もコンサートを企画し、プロデュースをした経験がある。それだけに、コンサートの実現には、どれほど多くの「雑務」が必要か、よく知っている。

 ドクターの情熱が人を動かし、こんな凄い内容のコンサートが、松本という山間の小さな都市で実現している。「町おこし」なんて怪しげなものではなく、個人が中心となって、それぞれが自分の好きなことを通して何事かをパトロネージュする。こうした「オシャレな旦那」の存在こそが、音楽家や美術家や工芸職人を育ててきた源泉なのだ。そのことを改めて感じさせられた松本行きだった。Yドクター(*)に深く感謝申し上げたい。

 *Yドクターは、松本医師会の重鎮のお一人で、内視鏡診療の世界では知られた方。ご自身の診療所は、木材の美しさを存分に引き出した建築で、県の建築賞を受賞しているという見事なもの。一方で、恐ろしいほどの仕事人間。そのストレスを、詩歌から工芸に至るまで、アートの世界で癒していらっしゃる。古いフルートやトラベルソの収集家である一方で、蔵書も圧巻。

2010/1/31

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『アンティークシルバー物語』大原千晴
  主婦の友社、定価 \2,100-、10月23日発売

  イラスト:宇野亞喜良、写真:澤崎信孝

  

  

ここには、18人の実在の人物たちの、様々な人生の断面が描かれています。この18人を通して、銀器と食卓の歴史を語る。とてもユニークな一冊です。

本書の大きな魅力は、宇野亞喜良さんの素晴らしいイラストレーションにあります。18枚の肖像画と表紙の帯そしてカトリーヌ・ド・メディシスの1564年の宴席をイメージとして描いて頂いたものが1枚で、計20枚。

私の書いた人物の物語を読んで、宇野亞喜良さんの絵を目にすると、そこに人物の息遣いが聞こえてくるほどです。来年弥生三月、弊店にてそのすべてを展示する原画展を開催する方向で、準備を開始したところです。

2009/11/23

■講座のご案内

 2010年も、様々な場所で少しずつ異なるテーマでお話させて頂く機会があります。また、この4月号から新たに

大修館書店発行の月刊『英語教育』での連載が2年目に入ります。欧州の食世界をさまざまな視点から読み解きます。ぜひ、ご一読を。

 というわけで、エッセイもカルチャーでのお話も、

「ヨーロッパの食卓の歴史的な変遷を、これまでにない視点から、探訪する。」が基本です。

 歴史の不思議な糸で結ばれた、様々な出来事の連なりをたぐり寄せてみる。そんな連なりの中から、食卓という世界を通して見えてくる、人々の社会と暮らしの面白さ。これについてお話してみたい。常にそう考えています。

詳しくは→こちらへ。