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大原千晴

アンティークシルバー物語

主婦の友社

人物中心で語る銀器の歴史

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大修館書店
「英語教育」3月号

食卓の歴史ものがたり

連載第12回

16世紀フェラーラ候家

結婚の宴

 

不定期連載『銀のつぶやき』
第113回「サンタフェブルース」

 

2011/3/3 

 昨年の秋のおわり、アメリカ・ニューメキシコ州サンタフェを訪れました。オクラホマの西北端からテキサスの西北端を通ってニューメキシコ州へ。舗装されていない山道を何時間も掛けて抜け降りるという、とんでもないコースがいい体験でした。サンタフェは、標高2千メートルを超える高地にあるリゾート。さわやかな空気と強い陽光、空の青さと森の緑が印象に残ります。

 山間には点々とお金持ちの別荘が立ち並び、そのほとんどが、アドービ(Adobe)と呼ばれる泥壁造り。建築外観規制の徹底ぶりが見事です。凝った風情の家が多く、住民意識の高さと共に、底知れない財力を感じます。そんな泥壁造り風の建物が並ぶこともあり、ここはアメリカでありながら、スペイン統治時代の残り香が一杯。実際メキシコ人の数も多く、公務員はスペイン語ができないと困る、とのこと。当然ですけれど、メキシコ料理がおいしい。テキーラがおいしい。店を選べば、お料理はもう、文句なしです。

 別荘地帯の風情に比べると、町の中心部はなんていうか、軽井沢的っていうんでしょうか。古くていい部分が少しあって、あとはチャラチャラしていて映画のセットみたいです。たとえば中心街に並ぶお土産屋さん、これがインディアンの伝統工芸品っぽいものや、布地、それに安っぽい銀細工とか、どこも似たようなもの並べて売ってます。その数全部合わせると百どころか二百店舗くらい軽くありそうな感じです。それに画廊。これも、銀座並みの集中度で、アート関連では全米でも屈指の取引額を誇るとか。

 

 でも、いたる所で不景気の風を感じました。あちこちで道路に面した階の空き店舗に出会いましたし、「閉店セール」をやってる店も、何軒もありました。中には、大きなモール(ショッピングセンター)が丸ごと「閉店セール」やってたりして。それにしても、同じような店が多すぎます。サンタフェの中心部を歩けば、誰だってそう思うはずです。そのせいもあると思いますが、なにもかもが過剰なのです。そこにリーマンショックが来て、景気が急速に悪くなってきたんだと思います。少なくとも昨年2010年晩秋の段階では、そうでした。

 

 もうひとつ不景気の証拠。別荘の売り物が沢山出ていました。オークションハウスとしても有名な、S社の不動産部門が扱っている物件を多く見かけました。売り物件の前に目立つ看板が立っているので、すぐにそれとわかります。S社は高級物件を取り扱うことで知られています。なので、この会社の看板が目立つということは、高級別荘に売り物が多く出ている、ということを意味します。

 億円単位の別荘購入者で、それを売らざるを得ない立場になった人が多く出ている、ということになります。リーマンショックの発信源は、もっと収入の低い低価格の不動産物件の購入者たちへの過剰貸出しだったといわれます。でも、数億円の別荘を購入するようなアッパー・ミドル層も、確実に沈み始めている、そう感じました。この「ミドルクラスの没落」という話は、今回の旅の途上あちこちで聞かされました。

 そうは言っても、不景気の話ばかりじゃ、ちょっとなんですよね。サンタフェでは楽しい体験もありました。町の中心部にある画廊で、メキシコの女性画家フリーダ・カーロ(wikiへ飛ぶ)の写真展をやっていました。彼女自身はもちろん、彼女と交際のあった人々、たとえば革命家のトロツキーとか様々なアーティストなどの写真が並びます。そのほとんどがオリジナル・プリントで、すごい価格。一枚百万円を超えるものも何枚もあったと記憶します。

 でも、お客がいないんですよね、画廊に。不景気ですから。僕がゆっくり見ている間、他に誰も来ない。で、主人に話しかけてみました。そしたら、話が弾んで。日本人で骨董銀器商だって言ったら、そんな日本人がいるなんて信じられない、みたいな話で、余計に話が弾みます。画廊の店主は話好き。暇だから本沢山読んでいて、知識が豊富で、だから話が面白くて。お金儲からなくても仕事楽しんでる感じが、どこかの骨董銀屋の店主みたいだな、と思いました。

 そのフリーダ・カーロ写真展で展示されている作品は、すべて、あるニューヨークの有名な画廊からの出展だとのこと。もしやる気があるなら、東京のあんたの店でこの写真展開いてみないか、なんて言われちゃいました。今回の旅では偶然、写真を扱う画廊に幾つも出会いました。アメリカでは有名写真家のオリジナルプリントは、非常に高価です。絵と同じ扱いです。ロンドンの一部の画廊でそうなっているのは以前から知っていましたけれど、アメリカは大都市でなくても、写真を高額で販売する画廊が存在してる。写真家の地位が、明らかに日本よりも高い、そう感じます。

 まあ、作品の質も、凄いんですけれどね。それと、アメリカで有名になるってことは、そのまま、世界で有名になるってことですから、当然これも価格に反映されますよね。ぜひ、日本人の写真家にもアメリカで活躍してもらいたいと思います。ひょっとすると、女性のフォトグラファーから、そういう人が出て来るかもしれないなって予感がします。しばらく前から日本の写真専門学校は、女子が男子の数を上回っていて、その傾向は年々進行しつつあるとのこと。「写真家=女性の仕事」となる日も、もう、すぐ、そこまできているようです。実際、弊店に取材でおいでになる女性フォトグラファー、もう珍しい存在じゃなくなってます。

 ちなみに、サンタフェには、こじんまりしていますけれど、写真美術館があります。その建物がそろそろ百年になろうかという、古くていい雰囲気です。古いものを大切にする。最近のアメリカは、どこに行っても、過去を振り返る流れが目立ちます。これもまた、時代(世界)の大きな変わり目を象徴している出来事だと感じます。アメリカは、もう、若くありません。

 

  きょうのお話は、ここまで。

  面白いお話、出てこい。
    もっと早く、もっとたくさん。

2011/3/3

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『アンティークシルバー物語』大原千晴
  主婦の友社     定価 \2,100-

  イラスト:宇野亞喜良、写真:澤崎信孝

  

  

ここには、18人の実在の人物たちの、様々な人生の断面が描かれています。この18人を通して、銀器と食卓の歴史を語る。とてもユニークな一冊です。

本書の大きな魅力は、宇野亞喜良さんの素晴らしいイラストレーションにあります。18枚の肖像画と表紙の帯そしてカトリーヌ・ド・メディシスの1564年の宴席をイメージとして描いて頂いたものが1枚で、計20枚。

私の書いた人物の物語を読んで、宇野亞喜良さんの絵を目にすると、そこに人物の息遣いが聞こえてくるほどです。銀器をとおして過ぎ去った世界に遊んでみる。ひとときの夢をお楽しみ下さい。

2009/11/23

■講座のご案内

 2010年も、様々な場所で少しずつ異なるテーマでお話させて頂く機会があります。また、4月号から新たに

大修館書店発行の月刊『英語教育』での連載が2年目に入りました。欧州の食世界をさまざまな視点から読み解きます。ぜひ、ご一読を。

 というわけで、エッセイもカルチャーでのお話も、

「ヨーロッパの食卓の歴史的な変遷を、これまでにない視点から、探訪する。」が基本です。

 歴史の不思議な糸で結ばれた、様々な出来事の連なりをたぐり寄せてみる。そんな連なりの中から、食卓という世界を通して見えてくる、人々の社会と暮らしの面白さ。これについてお話してみたい。常にそう考えています。

詳しくは→こちらへ。