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主婦の友社

「プラスワンリビング」

9月7日発売号

「アンティークシルバー

の思い出」


銀器の歴史に秘められた
人間ドラマを語る連載14回

今今回の主人公は
出自のハンデを乗り越えて
18世紀後半の英社交界と
宮廷女官政治の世界を生き抜いた
第5代アーガイル公爵夫人

この驚くべき女性が
銀器の世界に残した
興味深い足跡をたどります

 

不定期連載『銀のつぶやき』
第86回「マルセイユの向かい風」

2008/9/13 

    
 「大原、地図をよく見てみろよ。マルセイユからニースまでは海岸線も複雑だし起伏もかなりありそうだろ。それに、このあたりは風が強いらしいんだ。だから、一日あたりそんなに距離はかせげないと見たほうがいいんじゃないのか。」

 マルセイユの古い港

 小六と中一の2年間、自転車に夢中でした。3段変則、6段変則、最後は12段変則。ブリジストンを筆頭に各社から続々と売り出され始めた「スポーツ車」のカタログを穴が開くほど見つめた日々。

 きっかけは小学校以来の友人、綿貫君です。彼をリーダー格に諏訪本君や鍋田君と一緒に、しょっちゅう自転車で走り回っていました。

 中一になった時、突然、綿貫君が言い出したのです。「大学生になったら皆でヨーロッパ横断旅行に行こうぜ、もちろん、自転車で。そのためには今から計画立てなきゃ間にあわねえぞ。」

 丁度その頃、大学生がヨーロッパに貧乏旅行をするというのが「夢の話」ではなくなり始めていました。その言葉に僕も諏訪本君も動かされました。で、夏休みにはいると早速計画作りが始まりました。

 ヨーロッパまでは貨物船に乗せてもらう。マルセイユで船を降りて、そこからは自転車。カンヌニース経由でイタリアに入り、ローマを見てから北上してアルプスを越える。そこからパリをめざして一気にフランス縦断。カレーでドーヴァー海峡を渡ってロンドンへ。そんな話だったと思います。すごいですよね、この壮大な計画。ツールドフランスも真っ青です。

 まずは資料の入手です。これも綿貫君の発案だったと思います。
 「大使館に行けば何かいい資料があるんじゃないのか」
 「そうだね、まずは大使館だよね」と私と諏訪本君。

 無知とは恐ろしいものです。さっそく3人で自転車に乗って、まずは半蔵門の大英帝国大使館に行きました。その次にフランス共和帝国大使館にも行きました。

 「自転車旅行に行く予定なんですけど、何かいい資料ありませんか。」 大使館の大きな扉の前に中学生三人が自転車で乗り付ける。門衛だって困っちゃいますよね。そのオカシサを思うと吹き出したくなります。

 綿貫君が門番のおじさんと何か話していた光景が思い浮かびます。もちろんていよく門前払いです。「ここには、そういう資料はないんだよ。気をつけて帰りなさいよ」みたいな感じだったと思います。

 次に行ったのが日本橋は丸善の洋書売場。ここで確かハロウィグというスイスの会社の立派な道路地図を購入しました。まずはフランスとイタリアの地図です。今思い出しても色彩のきれいな道路地図で、これを机に広げて定規で計測しながら、マルセイユからの行程を綿密に計画し始めました。

 さして深い考えもなしに私が「1日80キロくらいは行けるんじゃないのかな。朝早く出て午前中3時間、午後2時間くらい走れば、それくらいは。」と言ったとき、綿貫君が真顔で答えたのが、冒頭の「大原、地図をよく見てみろよ」という言葉です。そのとき私は自分の考えの甘さにハッとして、綿貫君は偉いなと思いました。

 マルセイユでよみがえるビザンツ

 そうか、マルセイユは風が強くて起伏も激しいんだ。海岸線も複雑なんだ。だから一日に走れる距離は限られる。ここは慎重に計画しなきゃいけないんだ。そう思いました。中一の夏の思い出です。

 結局この「夢の自転車旅行」は実現しませんでした。ひと夏の熱狂だったのです。でも、マルセイユという町の名はこのとき私の心の中に強い印象をもって刻まれました。いつかマルセイユに行ってみたい。以来ずっとその思いを持ち続けてきました。

 それがこの夏ようやく実現し、ほぼ2週間この港町に滞在することができました。到着して数日後、海は群青にして白波立ち、空は紺碧。そして風速20メートルは軽く超えていると思われる風。町の守護神である巨大なキリスト像を訪ねて、強い向かい風の中、急勾配の坂道をやっとの思いで昇りながら思いました。

 

「ほんとうに綿貫君の言う通りだった」

起伏にとみ風強く白波輝く海

 

ワーちゃん、久しぶりにみんなで会って、 

南仏のワイン飲もうぜ!

 

きょうのお話は、ここまで。

面白いお話、出てこい。
もっと早く、もっとたくさん。

2008/9/13

■講座のご案内

2008年の講座は、これまでになく充実したものとなるはず。当の本人が、大いに乗って準備していますから。どうぞお楽しみに。

いろいろな場所で少しずつ異なるテーマでお話させて頂く機会があります。話の内容は様々ですが、基本テーマは一つです。

「ヨーロッパの食卓の歴史的な変遷を、これまでにない視点から、探訪する。」

歴史の不思議な糸で結ばれた、様々な出来事。銀器という枠を越えて、食卓という世界を通して見えてくる、人々の社会と暮らしの面白さについて、お話ししたいと考えています。

 

詳しくは→こちらへ。