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大原千晴

名画の食卓を読み解く

大修館書店

絵画に秘められた食の歴史

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シオング
「コラージ」8月号

卓上のきら星たち

連載26回

チャーチルとスターリン

 

不定期連載『銀のつぶやき』
第126回「今、ロンドンの食」

 

2013/9/5 
 

  今やロンドンは、極めて魅力的な「食の都」となっています。昨今の経済苦境に影響されて、多少グルメ志向が弱まってきた感はありますが、ロンドン独自の歴史と文化の中から生まれた、新しい形の美食指向は、とても興味深いものがあります。今回は、その一端をご紹介してみたいと思います。

 オリジナルはウェブマガジン「コラージ」(2011年11月号)誌上に掲載されたものです。オリジナル発表当時に比べて、多少「円安」に振れていますので、価格等に関する記述は、この点を考慮の上で、お読み下さい。

 

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 秋深まりゆくロンドン。昨今はパリにも劣らぬ美食の都です。これ信じない人が多いので困るんですけどね。そのロンドンの食の世界で、この秋(2011)目立つ流れについてお話してみましょう。きっとそこから「今」という時代が見えてくるはずです。

 

 まず、食品スーパー。店に足を踏み入れて驚くのが、その安値ぶり。生鮮から加工食品に至るまで、多くの食品で、昨年(2010)よりも目に見えて価格が下がっています。一年前に比べてざっと25%ほどの値下がりか、という感じです。あっ、これ、今回の円高を考慮に入れないでの話です。その上、同種類の品を2つもしくは3つまとめて買えば、三~五割引の価格にするという表示が至る所に。

 

    

 

 例えば電子レンジでチンして食べるスパゲッティ・ミートソース、ラザニア、マカロニグラタンの類。基本的に2人前のパックで、いずれも日本のそれの五割増しといっていい内容量です。1ポンド=百二十円で概算すると、ひとパック定価百八十円のものが、三つで三百六十円。英国を代表する庶民派スーパー「テスコ」(TESCO)での実際の価格です。

 

 手に持つとズシリと重みを感じるラザニア2人分パックが、ひとパック百二十円ですから、1人前六十円! ロンドンでは食品価格のデフレーションが確実に進行し始めています。英国政府の超緊縮財政政策とユーロ危機から来る景気低迷が基本要因です。しかし、今回の食品価格下落の背景には、大手スーパー間の熾烈な安値競争があることもまた事実です。

 

 いずれにしても、そのあおりを食らった形で、多くのスーパーの店頭でめっきり影が薄くなったのが、オーガニック食品すなわち、有機栽培の野菜果物と、有機飼料とフリーケージ(放し飼い)で育てた食肉です。もともと有機の食品は、そうでないものに比べて、二~三倍の価格で売られるのが当然の世界。三年前のリーマンショックをきっかけに、その人気に陰りが見え始めたことははっきりしていましたが、今年(2011)はその傾向が極めて鮮明に。昨年までは、多くの野菜果物で、有機と非有機の両者を併売するのが普通でした。今年(2011)は、有機併売が大幅に減少、昨年の三分の一くらいになってます。目立つ形で有機専用の売り場を設けていた店では、売り場そのものが消滅していました。

 

 ところで、今回の経済危機で一番大きな影響を受けているのがミドルクラスだと言われています。昨今のオーガニック食品ブームを支えていた中心層です。この層は今も「できれば有機を」という指向性は変わりません。しかし、肝心の所得に余裕がなくなってきた。ミドルクラスにとってさえ、有機食品を選ぶということが「贅沢」になり始めているわけです。

 

 日本よりもはるかに格差社会である英国。そのアッパークラス御用達の最高級食品スーパーでも、明らかに価格の値下がり傾向が見られます。特に、高級オーガニック中心の有名店は、かなりの苦戦を強いられている様子がハッキリ。数年前にはレジの前に長蛇の列ができるほどだったのが、今では売り場も閑散、日々売れ残った生鮮の処理をどうしているのか、心配になるほどです。同じタイプの高級店が大混雑のニューヨークとは別世界で、ロンドンに来て改めてニューヨークの底力を知る、という思いです。

 

  

 

 こうした中で、低価格化の影響をあまり受けることなく、品質の向上と種類の多様化が続いているのが、パンです。フランス風、イタリア風、南欧風、ドイツ風、中東そしてインド風まで。実に様々な種類がスーパーの店頭に並びます。店内ベーカリーでの焼き立てを提供する店が増え、全粒粉でマルチグレイン(多種混合)が目立つのが最近の傾向。とにかく、この十年で劇的に水準が向上していて、「英国=白い角型パン」なんていうのは、もはや昔話。食品スーパーに水準の高い多様なパンが並ぶという点で、ロンドンはニューヨークと同水準で、いまだにフランスパン中心のパリを越えています。

 

 さてここで目を外食に転じてみましょう。繁華街ビジネス街共に、レストランやカフェは増加傾向が続いています。ランチは一般サラリーマン中心の店で、5ポンド=六百円というのが平均でしょうか。東京と大差ないと感じられるかもしれませんが、5~6年前までは10ポンドを越えるのが当然だったことを思うと、大変な変わり様です。スーパーやテイクアウト専門店のランチが値下がりしている事態に引っ張られているのではないでしょうか。

 

 多様なエスニック料理への指向の強さは相変わらずで、中でも、お寿司から始まった和食の流行は既にブームを越えて、一つのジャンルとして確立。最近はラーメン、豚肉の生姜焼き、ギョーザ定食など、まるで学食のようなメニューを並べる「wagamama」に代表される「日本料理チェーン」が大当たり。同様のメニューの和食テイクアウト専門店(「wasabi」等)も支店網を伸ばしています。店の移り変りが激しいのはロンドンも東京同様で、去年まで時々食べに行っていたシンガポール料理の店が、今年はグルジア料理の専門店になっていてビックリ。秋のロンドンは、食の世界に限らず、あちらこちらで大きな変化が進行中です。

 

   きょうのお話は、ここまで。

  面白いお話、出てこい。
    もっと早く、もっとたくさん。

2013/9/5

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『アンティークシルバー物語』大原千晴
  主婦の友社     定価 \2,100-

  イラスト:宇野亞喜良、写真:澤崎信孝

  

  

ここには、18人の実在の人物たちの、様々な人生の断面が描かれています。この18人を通して、銀器と食卓の歴史を語る。とてもユニークな一冊です。

本書の大きな魅力は、宇野亞喜良さんの素晴らしいイラストレーションにあります。18枚の肖像画と表紙の帯そしてカトリーヌ・ド・メディシスの1564年の宴席をイメージとして描いて頂いたものが1枚で、計20枚。

私の書いた人物の物語を読んで、宇野亞喜良さんの絵を目にすると、そこに人物の息遣いが聞こえてくるほどです。銀器をとおして過ぎ去った世界に遊んでみる。ひとときの夢をお楽しみ下さい。

2009/11/23

■講座のご案内

 2011年も、様々な場所で少しずつ異なるテーマでお話させて頂く機会があります。

「ヨーロッパの食卓の歴史的な変遷を、これまでにない視点から、探訪する。」が基本です。

 歴史の不思議な糸で結ばれた、様々な出来事の連なりをたぐり寄せてみる。そんな連なりの中から、食卓という世界を通して見えてくる、人々の社会と暮らしの面白さ。これについてお話してみたい。常にそう考えています。

詳しくは→こちらへ。