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主婦の友社

「プラスワンリビング」

1月7日発売号

アンティークシルバーの思い出

連載16回
銀器の歴史に秘められた
人間ドラマ
今回の主人公

18世紀ロンドン銀器界の

伝統と権威に反抗する形で

バーミンガム銀器の礎を築いた
マシュー・ボルトン


努力家で闘争心あふれる
男の

興味深い生涯をたどります

 

不定期連載『銀のつぶやき』
第91回「ごん狐」その1

 

2009/2/15 

    
 小学生の頃、本を読まない子供でした。でも、童話は別。子供っぽかったんですね。だからでしょう、大人になってから再び買い直して本棚の奥底に眠っている童話が、何冊もあります。それがなにかの折に本棚の奥から出てくる。すると、ついつい読みふけってしまう。

 昨日は、木下順二『わらしべ長者―日本民話選』(岩波少年文庫)。初めて読んだのはまだ小学生も低学年でした。「夢みたいだなあ。わらしべ長者みたいになりたいなあ」。おこたの中で読んだこと、忘れられません。

画:赤羽末吉

表紙の絵。赤い着物が「あこがれの」わらしべ長者

今すぐにも、花咲く木の下に立ってみたい

 中学生になっても高校生になっても、この話のようなことが実際に起きればいいのにな、と夢見ていました。そして昨日も久しぶりに読んで、そう思いました。ぐーたらの魂百まで、ですね。

 この本にはもうひとつ、怠け者の夢を描いた作品が収められています。「三年寝太郎」。題名からして究極のぐーたら。初めてこの物語の題名を目にしたとき「わらしべ長者」みたいなお話なんだろうと直感しました。だから取りつかれるようにして読みました。そして「ああ面白かった。三年寝太郎みたいになりたいなあ」。

画:赤羽末吉

 こんな話を読んでは、夢を見る。勉強なんてぜんぜん、しない。向上心のかけらもない子供。それが年を取れば、ぐーたらな大人になる。だからジャンボ宝くじ、毎回のように買います。去年の12月はあれこれ忙しくて、つい買いそびれてしまいました。「ああ残念。買っとけば当たっかもしれないのに。そうすれば……」三億円を夢見ながら「松の内」を過ごしました。

 そんな夢から覚めたと思ったら、もう二月です。そしたらきのう「わらしべ長者」が本棚の奥から出てきて、また夢の世界に戻ってしまいそうになった。でも今回は少し覚めてます。というのも、はじめてこの岩波少年文庫の「あとがき」である「作者のことば」を読んでみたからです。

 長い間読み続け、ずっと手元にあった本なのに、昨日になるまでこの「あとがき」を読んだことがありませんでした。というのも、たくさんの振り仮名が振られた固い文章で、お話とは別世界。「わーっ難しそう」だったからです。その「あとがき」を初めて、読んだ。驚きました。

 私はこれまでこの本を「素朴な民話集」だとばかり思っていました。ところが「あとがき」を読むと、どうもそうじゃない。収められたお話の大半は、木下順二さんの見事な潤色・脚色で初めて「物語」として成立したものであるらしい。中には、わずか数行のメモ書きのようなものから、面白いお話に仕立てられたものもある。そう書いてあります。だいいち「あとがき」ではなく、「作者のことば」と題して「作者」ということを強調なさっている。

 要するにこの本は、木下順二という飛び抜けた才能の持ち主が大いに潤色した「民話選集」すなわち「木下順二の民話着想短編集」だったのです。「作品」の素晴らしさは別にして、子供の頃から「民話」だと思って親しんできたものだけに、ちょっとなんというか、ああ「作者のことば」読まなきゃよかったなあ。そう思いました。

 「この本のお話は、民話から着想を得ながらも実は、おじさんが考えたお話だったんですよ。だから面白いんですよ。」あえて言うと「作者のことば」にはそういう意味のことが、かなり難しい文章で書かれています。

 「作者のことば」によって舞台裏と楽屋に案内された。その向こう側には「現実」という光景が広がっている。それがイヤでも目に入ってきた。長い間楽しいお話を聞いて夢を見ていたら突然「ハイ今日のお話はおしまい。おうちに帰りなさいね。」と言われたような気分になりました。私は今に至って初めて「ほんとうの大人」なったのかもしれません。

 そう感じると同時に、この「作者のことば」を読んで、幾つかの疑問が氷解しました。あっ、そうだったんだ、だから……と思い当たることが。


  ちょっと長くなってきましたね。

    次回へとつづく、にします。


きょうのお話は、ここまで。

面白いお話、出てこい。
もっと早く、もっとたくさん。

2009/2/15

■講座のご案内

 2009年も、様々な場所で少しずつ異なるテーマでお話させて頂く機会があります。また新年3月発売の雑誌で新たに、連載がスタートします。これがちょっと意外な雑誌で、辞書や語学教科書で有名な

大修館書店発行の月刊誌『英語教育』です。

 今も一生懸命準備中です。ありきたりのものにしたくない、そう強く思ってます。目標だけは高く、です。

 いずれにしても、「ヨーロッパの食卓の歴史的な変遷を、これまでにない視点から、探訪する。」が基本です。

 カルチャーでのお話も、連載エッセイも、歴史の不思議な糸で結ばれた、様々な出来事の連なりをたぐり寄せてみたいと思ってます。銀器という枠を越えて、食卓という世界を通して見えてくる、人々の社会と暮らしの面白さについて、お話したい。常にそう考えています。

詳しくは→こちらへ。