2007/3/4
早くも春うらら。店の電話が鳴る。
私: おおはらでございます。
お客様: お店にお伺いしたいんだけど、場所はどの辺になるのかしら。
私: ちょっと住宅街に入り込んだ場所ですので、もしお手元にファクスがおありでしたら、地図をファクスで送らせて頂きますが。
お客様: あら、そう。ファクスあるわよ。番号はねえ、○○よ。
私: では、この番号にさっそくお送り致します。十分以上経っても届かないときには、改めてお電話下さい。
お客様: じゃ、宜しくね。
私はすぐにファクスの所に行き、店の地図をセットして、教えられた番号をプッシュし、しばらく様子を見る。しかし、行かない。やがてディスプレイにメッセージが出る。「相手先応答なし」。
1分ほど待って改めて送信してみる。また「相手先応答なし」。更にもう一分後に試してみる。しかし、まったく同じメッセージがディスプレイに表示される。この時点であきらめる。
あーっ、あのお客様、ファクスのこと忘れて、誰かさんと長電話始めちゃったんだ。これがあるから困るんだよなあ。まあ、また電話が来るのを待つことにしよう。
やがて電話が鳴る。先ほどのお客様だ。
お客様: あのね、紙をセットして待っているんだけど、紙が行かないよ。ゴメンなさいね、私、ファクスどうすればいいのか、分からないのよ。ファクスが入ってくると変な音楽が鳴るから、それは分かるのよ。今、何度か送って下さったでしょ。でも、どうすれば受け取れるのかしら、それがわからないよね。どのボタン押せばいいのかしらねえ。
私: 緑色のボタンありませんか?
お客様: あっこれね、「留守」って書いてあるけど、これ押すのかしら?
私: いえ違います。留守ボタンお押しになっちゃ困ります。スタートって書いてあるボタンありませんか?
お客様: あるある。これ押すのね。
私: もう一度送信致します。受信したのが分かったら、スタートのボタン押してみて下さい。
お客様: じゃ、お願いね。
もう一度ファクスの所に行き、送信してみる。しかし、行かない。「相手先応答なし」さっきと同じメッセージが表示される。こりゃダメだ。電話とファクスの切替設定がちゃんと作動していないらしい。しかたないので、お客様からの電話を待つ。すぐに電話が鳴る。
お客様: やっぱりダメだわね。
私: どうも無理のようですね。それでは、口で説明させて頂きます。最寄りの駅は地下鉄の表参道です。A5という出口を出て…。
お客様(笑いながら): 何度もお手数をお掛けしてゴメンなさいね。主人が戻ってきたら、今度よくやり方聞いておくわね。私ファクスできないのよね、信じられないでしょう。
私(同じく笑いながら): 是非ファクスのやり方覚えて下さい。ご来店をお待ち申し上げます。
お客様: 本当にありがとう。
私: どういたしまして、どうぞ宜しくお願い致します。
こんな電話のやり取りを3月3日の夕方に楽しませて頂いた。何ともトンチンカンなやり取りかもしれない。でも、私も、そしておそらくお客様も、最後は笑いをこらえきれず、楽しい思いで電話を切ることになった。
すべてEメールに添付ファイルでスムースに連絡が行く時代に、ファクスと電話で、それでも、うまくやり取りが出来ない。でも、そのことのおかげで、お客様も私も、なんとも楽しいおかしな会話を交わすことが出来た。
コミュニケーションというのは、こうした断続があった方がむしろ、線の両端にいる人間同士をしっかりと結びつけることがある。つくづくそう思わされた楽しい経験だった。
それにしても、あのお客様、私の口頭での説明で、ちゃんと私共の店にまでたどり着いて頂けるのだろうか。ファクス受け取れない方が口で説明した道順たどれるといいのだけれど。のんびりとした、春の初めに、無事のご来店をお待ち致しております。
きょうのお話は、ここまで。
面白いお話、出てこい。
もっと早く、もっとたくさん。
2007/3/4

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この春も、いろいろな場所で少しずつ異なるテーマでお話させて頂く機会があります。話の内容は様々ですが、基本テーマは一つです。
「ヨーロッパの食卓の歴史的な変遷を、これまでにない視点から、探訪する。」
歴史の不思議な糸で結ばれた、様々な出来事。銀器という枠を越えて、食卓という世界を通して見えてくる、人々の社会と暮らしの面白さについて、お話ししたいと考えています。
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