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2006年夏から主婦の友社

発行のインテリア雑誌

「プラスワンリビング」
(隔月刊)にて連載開始。


人間を主役に銀器と歴史を語る、ユニークなモノがたりが始まります。

 

不定期連載『銀のつぶやき』
第33回「デニーズのクラブハウス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2006/3/23

オクラホマシティのはずれを車で移動しているときだった。お昼になったので、どこかよさそうな店で食事を取ろう、ということになった。街道沿いにポツポツと、ドライブインの看板が現れては、去っていく。ガソリンスタンド、商店モール、中古車ディーラー。どこも、駐車スペースに立てられた高いポール上で、大きな派手な看板が、のんびりと回っている。

なんとなく、日本の都市の郊外に似た光景。というよりも、日本の都市郊外は、知らない間に、アメリカの郊外のような景色になってしまったというべきかもしれない。ただし、店の現れる間隔というか、空間の広さが、決定的に異なる。

だだっ広いところに文字通り、ポツンポツンというかポツリポツリというか。東京郊外のように、風力発電のプロペラかと思われるほど看板がズラリと並んで回っている、というような密集度は考えられない。そんなことを思いながら、ボンヤリとその行き過ぎる様を眺めていた。

そしたら、少し先に、私にも見慣れた看板が現れた。"Denny's"すなわち「デニーズ」の看板だ。どうしてこんな所にデニーズがあるんだ?と思った瞬間思い出した。日本のデニーズはもともとアメリカの有名チェーンのライセンスを日本に持ってきたものだったと。

私はすかさず、「あの店に入りたい!」と叫んだ。「どうして?」と聞かれて、「日本にもあるので、本家アメリカのデニーズがどんなものなのか、見てみたいから。」と答えた。「そりゃ、面白いね。よし、デニーズにしよう。」ということに決まった。

もちろんコレもある。けれど、日本のセブンイレブンに、ガソリンスタンドはあるのだろうか?こういうの見ると、バイトのアンちゃんがいて、日本語で用が足りるんじゃないかと思ったりしてしまう。それにしても、何という夕暮れの空か。この非自然派の私が、毎日夕暮れになると、空を見つめていた。そして、これが暮れると、星が降ってくる。プラネタリウムは必要ない、と思った。

 

店は街道から少し入った所にあったので、店の駐車場までゆっくりと、アプローチを進んでいった。すると、目の前に現れたのは間違いなく、東京郊外でおなじみのデニーズそのものだった。あんまりそっくりなので、ほんとうに不思議な気がした。

駐車場に車を停め、店に入る。玄関回りの造りや雰囲気も、まったく同じだ。中に入るとちょっと薄暗く感じる。この薄暗い雰囲気が日本と違うと感じたが、違いは、それくらいだ。すぐにウェートレスが出てきた。四十歳前後だろうか、インディアン系の小太りのオバサンが、日本とそっくりの制服を着て、ニコニコしながら席に案内してくれる。膝小僧が出るほどのスカート丈で、靴は真っ白なスニーカー。でも、こんなデニーズのウェートレスは、日本では考えられない。だいいち、「外人」じゃないか!

デニーズは私にとって思い出深い店だ。今から二十年も昔、まだ勤め人をしていた頃の話になる。当時よく一緒に行動していた上司が、デニーズの和風ハンバーグが好物だったのだ。ある取引先に午前中行くと、お昼は必ずそばのデニーズで和風ハンバーグというパターン。これはもう、よく飽きないものだと思うほど、彼は和風ハンバーグ一筋だった。

そして必ず「大原、好きなもの取っていいぞ。遠慮するな。」というのも決まり文句だった。今なら回る寿司で「好きなだけ食べていいぞ。二百円の皿でも遠慮するな。」と言われているような、ありがたさを感じたものだ。支払いは金色のJCB法人カード。デニーズでこんなカードで支払う人、今だって珍しいんじゃないだろうか。私は、遠慮せず、クラブハウスサンドイッチを頼むことが多かった。

そういえば、民主党の永田議員が入院する直前、ホテルに雲隠れしているとき、ルームサービスで頼んだのが、このクラブハウスサンドイッチで、それも二千八百円とかだったと、新聞に出ていたのを思い出した。脱水症状で入院するほど衰弱している人が、どうして、そんなに食欲があるのかと皮肉った記事内容だったと覚えている。

その記事を読んだとき私は、デニーズのクラブハウスを思い出し、クラブハウスサンドイッチで二千八百円も取るのは、かなりの一流ホテルに違いないと、国会周辺の幾つかの候補を頭に思い浮かべてみたりした。そして、一流ホテルの一室で、追いつめられた心境の中、電話掛けまくりながら、二千八百円のサンドイッチを食べるような立場にはなりたくないなあ、と思った。

サンドイッチはもともと、皆様よくご存知のように、英国はサンドウィッチ伯爵がゲームをやりながら食べるものをということで…という講釈がある。国の選良である永田議員のクラブハウスサンドイッチは、その意味では、サンドイッチの由緒ある伝統にのっとった、「正しいサンドイッチの食べ方」ということになりそうだ。ただし、その空いた方の手でプレイしているゲームが、チェスやトランプとは違って、あまりにも危険なゲームであり過ぎたかもしれない。

オクラホマのデニーズに戻ろう。

でも、少し長くなってきたので、次の回に「つづく」とさせて頂く。

この三月に入って突然、「つぶやき」の更新が頻繁になっている。これは、夏から「プラスワンリビング」誌の連載が始まることが決まり、喜びと同時に、大きなプレッシャーを感じているからだ。これがムチになっている。のんびりロバもムチが入れば、ヨロヨロながら歩き出す。そんな感じだ。

(次回へとつづく)

きょうのお話は、ここまで。

面白いお話、出てこい。
もっと早く、もっとたくさん。

2006/3/23

■講座のご案内

この春先もまた、少しずつ異なるテーマでお話させて頂く機会があります。話の内容は様々ですが、基本テーマは一つです。

「ヨーロッパの食卓の歴史的な変遷を、これまでにない視点から、探訪する。」

歴史の不思議な糸で結ばれた、様々な出来事。銀器という枠を越えて、食卓という世界を通して見えてくる、人々の社会と暮らしの面白さについて、お話ししたいと考えています。

詳しくは→こちらへ。