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大原千晴

アンティークシルバー物語

主婦の友社

人物中心で語る銀器の歴史

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大修館書店
「英語教育」3月号

食卓の歴史ものがたり

連載第12回

16世紀フェラーラ候家

結婚の宴

 

不定期連載『銀のつぶやき』
第114回「アウクスブルク -1-」

 

2011/3/10 

 
 昨年の夏、南ドイツの小都市アウクスブルクを訪れました。骨董銀器商として一度は行かなければ、長い間そう思っていた場所です。なぜ?

 16〜17世紀にかけて南ドイツのこの一帯では、銀器造りが非常に盛んになります。ここから欧州諸地域に向けて、主に教会の儀式で使われるさまざまな銀器が送り出されています。燭台、洗礼儀式用品たるワインカップやパンを載せる台、キリストや様々な聖人様の像、小さな旅行用の祭壇、教会の礼拝堂を飾る祭壇、小さなものから大きなものまで実に様々な銀器が、この地域一帯で作られていました。敢えて言えば、バロックの教会によく似合う雰囲気の、凝った装飾と写実的な人物描写に特徴のある独特の銀器で、それは今も、欧州各地の教会や美術館・博物館で目にすることができます。

銀器にも通じる、教会内の装飾

 「銀器造りが盛ん」ということは、豊かな市場経済が背景にあることを意味します。当時の欧州でも屈指の富の集積。その豊かさの源泉となったのが、この町を本拠地とした巨大財閥「フッガー家」(wikiに飛ぶ)の存在です。フッガー一族については、主婦の友社『プラスワンリビング』2007年10月号に掲載された私の連載エッセイで、お話しています。この連載エッセイは、その大部分が『アンティークシルバー物語』に収録されたのですが、残念がら、このフッガー家の回は、収録されませんでした。今もって残念なのですけれど。いずれにしても、欧州銀器の歴史を語るとき、フッガー家の存在は見過ごしにできないのです。

デュラーの描いたJacob Fuggerの肖像(1518年頃)

 アウクスブルクは、ロマンティック街道に並ぶような「古く美しきドイツの小都市」じゃあ、ありません。町の中心部には、古いもの、あまり残っていません。殺風景なくらいです。なぜって、日本と同じようにドイツは、第二次世界大戦で手ひどい敗戦を経験していて、この小都市も連合国側の激しい空爆で、めちゃめちゃに破壊されているからです。ドイツは原爆こそ落とされなかったかもしれないれど、その点を除けば破壊の度合いは、日本本土の諸都市よりもひどかったのかもしれない、そう感じました。

空襲で外壁を残して廃墟と化したフッガーライ.1944年冬?

 アウグスブルクに到着してまずは、ヤーコプ・フッガーが創立した救貧施設「フッガーライ」(wikiに飛ぶ)を見に行きました。上の写真の通り、フッガーライも爆撃で大きな被害を受けてます。でも、下の写真にあるように、近世初頭の雰囲気を取戻すまでに見事に復元されています。まるで、アントン・フッガーやルターの時代も、同じ姿で建っていたと思われるほどに。

■2010年夏 上のモノクロ写真と同じ場所(噴水)

 そんな昔を想像しながら施設の内部をあちこち散策していたら、思いも掛けないものに出会いました。第二次世界大戦時の地下防空壕です。これが戦時の状況を伝える一種の「記念館」となって公開されていたのです。そんなものがここにあるなんて、ガイドブックには一言も書いてありません。だから、大したものはないんだろうと思いつつ、軽い気持ちで、わずかな電球で照らされただけの地下防空壕に、足を踏み入れてみました。

■防空壕の入口そばにある、ヤーコプの銅像

 内部は空気が冷たく、重い湿気を感じます。そこにごくわずかな明かりがあるだけで、ちょっと不気味な雰囲気。奥から何か昔の録音らしき声と歓声が聞こえてきます。ヒトラーの演説と熱狂する聴衆の歓声。当時の実写フィルムがテレビ大のディスプレイに映し出されています。空襲で破壊される前のアウクスブルク中心部。見事な街並みの至る所に、ナチスのカギ十字の旗が目立ちます。この時代のドイツの実写フィルムを見るといつも、その画像の鮮明さに驚かされます。それがまるでつい最近のことであるかのように思われてしまって...。

 迷路のように作られた地下壕の展示は、連合軍の空襲から身を護るためのマスクとか、苦しい暮らしを思わせるような様々な遺品、粗末な外套、身分証明書とか、食器類もあったように思います。この防空壕に隠れて連合軍側の激しい空襲を耐えていたんだと、身をもって感じました。そしてこれは、思ってもみない体験となりました。

 なぜかというと、この展示は、この地下壕に隠れた人々の思いがこもった展示だからです。ヒトラーを糾弾するとか、正義の名の下にナチスを断罪するとか、そういう立場からの展示ではないのです。ごく自然に、「あの頃はひどい目にあった。空襲が恐ろしかった。あの美しかった我がアウクスブルクは、連合軍の空襲でメチャメチャに破壊されてしまった。許せない...」という感じの展示だと、私には感じられました。そして展示をした人々は、おそらく、今も内心では「許せない...」と思い続けているに違いないと。

 子供の頃から「ナチスドイツ=極悪非道」という図式を刷り込まれてきた私は、ここで初めて、「ふつうのドイツ人の立場から戦争を見るという視点」に出会ったと感じました。それは当然ながら、同じ敗戦国民たる我々に直結するものとならざるを得ません。まさかここで、こんな出会いがあるなんて。そんな驚きと複雑な思いを持って外へと向かいました。

■内庭の巨木。右側の芝生の下が防空壕

 地下壕の暗がりからパッと開けた目前には、手入れされた庭が広がり、巨木が覆う木陰にベンチが置かれています。そこに座って、混乱する頭を冷やしました。大木の梢から聞こえる鳥のさえずり。これを耳にしながら、思いは1944年へと飛んでいきました。空襲警報と共に地下壕に逃げ込み、爆弾落下と機銃掃射の音に耳をそばだてながら、湿った地下壕の空間でじっと身を縮める人々。そんな人々が、かつてここには住んでいたんだ、という思いを感じながら。

次回へと続きます)

 

  きょうのお話は、ここまで。

  面白いお話、出てこい。
    もっと早く、もっとたくさん。

2011/3/10

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『アンティークシルバー物語』大原千晴
  主婦の友社     定価 \2,100-

  イラスト:宇野亞喜良、写真:澤崎信孝

  

  

ここには、18人の実在の人物たちの、様々な人生の断面が描かれています。この18人を通して、銀器と食卓の歴史を語る。とてもユニークな一冊です。

本書の大きな魅力は、宇野亞喜良さんの素晴らしいイラストレーションにあります。18枚の肖像画と表紙の帯そしてカトリーヌ・ド・メディシスの1564年の宴席をイメージとして描いて頂いたものが1枚で、計20枚。

私の書いた人物の物語を読んで、宇野亞喜良さんの絵を目にすると、そこに人物の息遣いが聞こえてくるほどです。銀器をとおして過ぎ去った世界に遊んでみる。ひとときの夢をお楽しみ下さい。

2009/11/23

■講座のご案内

 2010年も、様々な場所で少しずつ異なるテーマでお話させて頂く機会があります。また、4月号から新たに

大修館書店発行の月刊『英語教育』での連載が2年目に入りました。欧州の食世界をさまざまな視点から読み解きます。ぜひ、ご一読を。

 というわけで、エッセイもカルチャーでのお話も、

「ヨーロッパの食卓の歴史的な変遷を、これまでにない視点から、探訪する。」が基本です。

 歴史の不思議な糸で結ばれた、様々な出来事の連なりをたぐり寄せてみる。そんな連なりの中から、食卓という世界を通して見えてくる、人々の社会と暮らしの面白さ。これについてお話してみたい。常にそう考えています。

詳しくは→こちらへ。