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主婦の友社

「プラスワンリビング」

7月7日発売号

「アンティークシルバー

の思い出」


銀器の歴史に秘められた
人間ドラマを語る連載13回

今回の主人公は

18世紀後半英国建築界に

新しい波を起こした建築家

ロバート・アダム

銀器と建築家

そこに不思議なつながりが

インテリアから工芸まで

新しい波を起こした男達の話

 

不定期連載『銀のつぶやき』
第84回「今どきのお年寄り」

2008/8/3 

  

  
 「ヴェルサイユって2度行ったんだけど、こんなふうに間近で、こういうきれいな小物は見られなかったわねえ。だいたい現地に行くと忙しいのよね、スケジュールに追われて。ここで見る方がずっといいわね。こんなにそばで見られるんだし…」

 ガラスケースに飾られた「美しいエマーユ(七宝)の小箱」を見て、一人のおばあ様が口にした言葉です。小箱の蓋にはマリ・アントワネット若き日の肖像が細密画のように描かれています。ことし東京で桜の開花が宣言されたその翌日、上野公園に行きました。お花見じゃあ、ありません。ヴェルサイユ展です。その会場での出来事です。

 お花見も兼ねてという人々が少なくなかったようで、館内はかなり混雑していました。展示の前を列になって動くしかない、という感じです。ゴッホ展とかルノアール展とか、そういう人気展覧会でよくある、列になって会場内を移動する、そういう状況です。

 なぜヴェルサイユ展を見に行ったのかというと、銀器です。昨年「私も」パリ郊外のヴェルサイユに行ってます。でも、そのときには見られなかった銀器が展示されるらしいと聞いたので上野に出かけてみたわけです。会場は熟年女性が八割を占めていました。お爺さん達はどこで何してるんでしょうかねえ。

 列の私の前も、おばあ様の二人連れです。一人はかなり腰が曲がっていらして、肩から斜めにバッグをさげ、杖をついていらっしゃいます。七十五歳くらいでしょうか。もう一人は少しお若くて、それでも六十五歳くらいでしょうか。ご親戚か近所の友達か、二人ともかなり強力な茨城アクセントだと感じました。

  白い建物はマリ・アントワネットの小劇場、夢の跡

 「ヴェルサイユには2度行ったんだけど…」というのは、その腰の曲がったおばあ様の言葉です。これを耳にして「今どきのお年寄り」特に女性は、やはりそうなのだ、と改めて思いました。最近若い連中が海外旅行を敬遠し始めていると聞きます。それに反して熟年女性は、驚くほどどこにでも行っている、と感じます。そりゃそうですよね、ジャルパックが今年創立四十周年だそうですから。

 例えば私の叔母夫婦。一時は年に3回も海外旅行に出ていました。「もう面白そうな所がない」で、西遊旅行社とかのツアーに凝ったこともありました。若い頃スキューバダイビングで海外の海に潜ったりしてた夫婦です。欧州はもちろん、南米の奥地から太平洋の小島、アジア各地など、とにかく行きたいところはだいたい行ってしまった。なのに今でも、年に2回は出かけています。近ごろ珍しくないですね、こういう熟年カップルが。長年働いてきた成果を思う存分味わおうということでしょうね、きっと。

 豪華客船の旅というのも、ひとつのパターンです。最近の流行はカリブ海クルーズだという噂を耳にしました。チベットの天空列車とか、エジプトのナイルの旅とか、そういうのも当たり前になってきてます。先日私の母が病院の待合いで待ってたら、隣に座ったお婆さんがおっしゃったそうです。「先週ニューヨークから帰ってきたら飛行時間が長かったせいか、腰を痛めちゃったようで…」だそうです。その話を聞いている母だって、クレタ島にもエルサレムにもモロッコにも一人で旅をしてきた人です。ニューヨークなんて彼女、三ヶ月ほど暮らしていたことがあったはずです。

 数年前にNHK学園で英国銀器とロンドンの街の歴史を少しお話したことがあります。講義後質問にいらした「かなり」年配の女性がおっしゃいました。「先生、ロンドンの街並みは大火の後と前では、まるで違っているわけですよね。大火の前を知りたくて先日シティの道に立って見回してみたんですけれど、あの辺は…」などという恐ろしいご質問でした。

 何が言いたいのか、ですって? 簡単です。

 こういう豊かな熟年女性が珍しくなくなっている。余裕があり、世界中見て歩いている。教養の水準も高い。パリやニューヨークなんて、行きたい時に行っている。茂吉夫人の斎藤輝子さんやミニ兼高かおるさんみたいな女性が増えつつある。もちろん、一部です。でも、もはや珍しくない。

 メディアを含めてあらゆるサービス業は今、こういう皆様を満足させることができないと、未来がないのではないかと感じます。レストランだって、下手な講釈はしない方がいいかと。「カレームのレシピが元だったかしらね。リヨンの二つ星、なんて言ったっけあの店で去年…」なんて言われたら、どうする? 

 

 いやもっと切実に「大原さん、これにそっくりな銀器が、この前チューリッヒのオークションに出てたわよ。こんなにきれいじゃなかったけど、よく似てたわねえ。」

千鳥ヶ淵  江戸っ子は地名もしゃれたもんでね

きょうのお話は、ここまで。

面白いお話、出てこい。
もっと早く、もっとたくさん。

2008/8/3

■講座のご案内

2008年の講座は、これまでになく充実したものとなるはず。当の本人が、大いに乗って準備していますから。どうぞお楽しみに。

いろいろな場所で少しずつ異なるテーマでお話させて頂く機会があります。話の内容は様々ですが、基本テーマは一つです。

「ヨーロッパの食卓の歴史的な変遷を、これまでにない視点から、探訪する。」

歴史の不思議な糸で結ばれた、様々な出来事。銀器という枠を越えて、食卓という世界を通して見えてくる、人々の社会と暮らしの面白さについて、お話ししたいと考えています。

 

詳しくは→こちらへ。